大和の交響曲

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1CD / 大友直人指揮 NHK交響楽団 / 交響曲「宇宙戦艦ヤマト」

といってもここでこうやって紹介しようとも現在廃盤なので聴くことは不可能(CDは1万、DVDは2万以上のプレミアがついてる)。

1984年。「完結編」でその物語に終止符を打ったヤマトの、最後のイベントとして五反田簡易保険ホールに1800人のファンを無料招待して行われたコンサートの実況録音盤。俺も当然応募したはずだが落選(涙)。まぁ当たってたとしても「正装」必須だったので、学生服しかなかった俺はビビってたかもw

しかも楽曲はこの1回きりの演奏のために羽田健太郎が書き下ろしたもの。まぁお金かかって豪勢だが、当時はアニメ関連のレコードが飛ぶように売れてた時代。十分元が取れるのを見込んでの大盤振る舞いだったんだと思う。

とにかく圧巻なのは100人を超えるフル・オーケストラによる演奏。ヤマトの音楽は基本的にオーケストレーションだが、TVシリーズ用に小編成、映画用でも6-70人の中編成(憶測)なのでその差は歴然。

ヤマトといえば第1作映画公開に伴って「交響組曲」を冠して宮川泰(ひろし)が書いた劇伴を拡張した最初のオーケストラ作品が存在するが、この作品は(主題歌にかぎらず)永遠無二の各テーマ・モチーフを散りばめてはいるものの、基本的には各章10分越えの4楽章からなる「新曲」と見なされている。

よってサントラで聴きなれた曲が聴けると思って臨むと違和感を覚えるというかその長さゆえ退屈ささえ感じるかも。「完結編」に作曲家として参加した氏の作ゆえに「『完結編』をテーマにした作品」と実際に見られてるふしがある。でも各モチーフを繋ぐアレンジが「完結編」で聴けた「ハネケン節」に似てるだけで(当たり前だ)、まったくの別物である。なので、聴き処を「羽田健太郎作曲」と捉えれば、彼のそれまでのキャリアの集大成ともいえ、文句のつけようがないほど素晴らしい。ポピュラー音楽で名を馳せて、初志であったクラシックから遠ざかってた彼の原点回帰でもあり、むしろ「新たなる果敢な挑戦」だったとも言える(事実、氏はその後クラシックを題材とする仕事をメインにし出した)。

お決まりの川島和子の透き通ったスキャット、N響コンサート・マスターであった徳永二男のヴァイオリンとハネケンのピアノによる第4楽章でのソロの応酬は圧巻。後の俺に「様式美におけるギターとキーボードの掛け合いが大好き」という面に影響を与えたといっても決して過言ではないw


その後、アニメから洋画、洋楽、メタルへと嗜好を代えていくことになる俺だが、2000年代に入ってまたヤマトのバック・カタログを集めるようになるまでの、2-3千枚のCDコレクションの中で、唯一LPから買いなおしてたアニメ作品はコレと組曲「マクロス」だけだった。後者もハネケンによるもので、自ら書いた劇伴モチーフを一切封印した完全オリジナル作品。どちらにも彼にしか出せない持ち味が満載だったし、今でもワンフレーズ・ワンフレーズは鮮明に記憶にあり、各楽器パートごとの「エア・オーケストラ」ができる(指揮者含む、猛爆)くらいに、自分の音楽人生に欠かすことのできない存在だった。


宮川泰亡き後、息子の彬良(あきら)が主題歌歌手であるささきいさおとつるんで「交響組曲」A面再生プロジェクトを「正史」として進める一方で、この「交響曲」はその壮大さで困難ゆえか「外道」とみなされてるのか、実に25年にわたって封印されていた。それがこの5月に当時の指揮者・大友直人が常任指揮者を勤める東京交響楽団による2回の再演があると訊きつけて早速チケ購入。

クラシック・ホールといえば社会人1年生の時に同僚が四重奏発表会で行ったきりなので20年ぶり。インギーや某レインボーのヴォーカル、ディープ・パープルによるオーケストラ競演すら観なかった俺にとって、初めてのフル・オーケストラ演奏会だ。胸躍る。いや、座って観るので寝てはしまいか?心配(爆)。

メニューには坂本龍一・三枝成彰ら他の現代音楽家のサントラ曲とともに紹介されてるので、そもそもフル演奏されるのか?すらおぼつかない。


まぁいろいろな気持ちが交錯してその日を迎える。池袋の東京芸術劇場とミューゼ川崎シンフォニー・ホールの2回。天気はぐずついてたがなんとかもった。もっとも両方とも駅から直結なんで降ってたとしても、さほど問題ではなかったが。


初めてのシンフォニーの感想は、意外に音小さいのね。。。普段爆音に慣れ親しみすぎとるからか?(苦笑)まぁエレクトリックなしの生音だから当たり前なんだが、100人も集まれば音が顔面シャワー洪水のように押し寄せてくるかと思いましたが。。。


もっともそう感じたのは前半で、元々大人しい曲調のナンバーだったからかもしれない。そして後半はいよいよ交響曲ヤマト、その完全再現!と告知され、かなり興奮!でも20分の休憩が入る(バタッ)。

第四楽章でピアノがフィーチャされるので大きな舞台チェンジがあるのかと思ったらここではなし。前半が1時間も満たないというのに、いやはやクラシックって悠長なもんだなぁw


てかね、不謹慎だけど、「この人たち真剣にやってるの?どうせギャラの頭割り考えたら少ないんだからテキトーなんじゃない?ロックの世界なら、アマチュアのバンドだってそんな休憩入れないで最後までちゃんと気合入れてやってるよ!見習わせたい」って思った。


でも、いよいよ曲が始まった時。。。


レコードで聴くのと一緒の音が一斉に耳に入ってきて、身震いした。足がガクガク震えた(汗)。弦楽器が素晴らしいメロディを奏でるのはもちろんだが、打楽器と管楽器がアクセントをつける曲の構成自体が前座の曲と違うんだから。手に汗握ってた。アドレナリンがどんどん放出されてくのがわかる。ロック聴いてる状態とまったく一緒。


初日池袋は楽団の直販サイトで買ったステージ前のS席(7000円)だった。川崎のほうは、やはり俺だけに両日抑えたほうがいいね!って思い立ったのが先週日曜日だったので(笑)、唯一売れ残ってたCNプレイガイドで買った4000円のB席だった。でもちょうどステージ右側上方からオーケストラを見下ろす感じの席のほうがむしろ「当たり」だった。


大友さんの指揮もケツでなく顔が見えたし、エアー・オケできるくらい染み込んでるから、上から見てて次は誰が音を出すかが判るので、次から次へと目のやり場に忙しいw でもそっちのほうが全然楽しいし、演奏者の顔が見えると、個々が譜面にあわせて自分の仕事を丁寧にこなしてるのがわかる。一瞬でも「手抜き」なんて思って申し訳なく思う。


各楽章に必ず目がウルウルするところがあって、でも音は出せないので(汗)、かなり困りました。


やはり、2日目の川崎のほうが進行にミスもなく(初日は第3楽章飛ばして舞台チェンジをうながそうとした、汗)完成度として高かった気がする。無論、レコードに慣れ親しんできた俺としては、ヴォーカリーズ(ヤマト音楽では「スキャット」と表現してるが本来のクラシック用語ではそう言う)やピアノに違和感を覚えたのは率直な感想だが、「スタイルが違う」だけで、さしたる問題じゃない。


曲の始まりと舞台チェンジの間に大友さんの「生き証人」としての宮川・羽田両故人のエピソードが紹介される。

この譜面の表紙には「宇宙戦艦」の文字はなく、ただ「ヤマト交響曲」とだけ書かれてる。それはハネケンさんが、ドラマの世界に関わる音楽としてだけでなく日本を代表できる交響曲にしたかったという意気込みの表れだったんじゃないかと。スコアができたのが演奏前日だったというほど、悩み磨かれて完成された過程を知ってる大友さんは。。。


昨日は耐えたんだが、今日は声を詰まらせて思わず涙ぐんでしまったんである。


そこで観客から励ますように拍手が沸き、それは舞台の楽団員からもだった。演者の一人ひとりが同じ気持ちで真剣にこの日を迎えてたこと、観客もその思いを理解して心して対さなきゃいけないと、想いがひとつになった瞬間だったと思う。だから1時間の演奏があっという間だった。その濃さは想像以上のものだった。最後の割れんばかりの拍手・喝采は忘れられないくらい素晴らしかったよToT。


「伝統=クラシック」を守るだけがオーケストラの使命じゃない。現代の音楽家が残す作品にも劣らないものがあることを伝えていくこと。それが大友さんの願いだという。
その想いが今ひとつ叶った場に居合わせていただいて光栄としか言いようがない。6/2で2回忌を迎えるが、良い法要になったと思うし、ハネケンさんもどこかで「いつもの笑顔」で喜んで見守っててくれたに違いない。


定期演奏会の枠では「変わった趣向」として行わなきゃならないようなので再演は難しそうだが、「正史」として認められまいとも、俺はこっちのほうを何度でも聴きたいと思った。今回に限らず是非語り継いでってほしい。日本の偉大なるシンフォニーを。

90年代、その直前にあの宮崎勤の事件があってから十数年間、自分がアニメおたくだった事をひた隠しにしてた時期があったわけだが、今は胸を張ってあの頃の「良き時代」をこうして語れること、そしてハネケンさんという素晴らしい作曲家に出逢えたことを自分の人生の中で誇りにこそ思えた、25年目の春の夜だった。


ありがとう。

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このページは、kino1989が2009年5月17日 23:38に書いたブログ記事です。

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