ソロアルバムの情報がにわかに伝えられはじめた2000年7月初旬、パーソナルアシスタントのマイケル・マッキンタイヤー氏から

「素晴らしいサイトをいつも見せてもらっている。8月中旬に日本に行くから逢ってビールでも奢りたい。ニューカッスル・ブラウンエールは見つからないかもしれないけど(笑)」
 
との驚愕メールが届く。

 その後アン・マクラレン(今オフィシャルで活躍している女史)経由で、知る限り全てのWS関連サイトのウェッブマスター宛てに同報で8月末にオフィシャルサイトがオープンするとの連絡も入る。

 あらゆることがゆっくりだが動きはじめていることに期待を膨らませて正確な日付も知らされないまま、そんなこんなではや1ヶ月半が過ぎた。

 そしてマイキーから「昨晩着いた。朝イチでEMI担当に連絡して会合をアレンジしてもらって」とのメールがいきなり届く。覚悟は決めてたが、やはりド緊張(爆)。担当の口からはその当日「一緒に昼食でもどうか?」という話も一瞬浮上したものの、気持ちの整理がつくはずもなく、後日改めて日程調整ということで仕事に入ってもらう。もし断っていなかったら「B!」のこぼれ話に載ってた、春菊キライで(笑)スピリチュアルな瞑想に凝っていると話す彼の貴重な姿が拝めたのかも。。。

 仕事に影響しないようにとこちらが気を遣ったせいもあってその後二転三転する電話のやりとりを経てようやく決定。その右往左往する姿は当時のMLを見れば明らかだがここにわ再現しない(苦笑)。後述するように会見10分前("Ten Minutes To Midnight"!)までの二十数時間、何も音沙汰がないのは飼い殺し状態に等しい。


そして2000年8月11日。


 およその指定時間前に虎ノ門へ到着してコーヒーショップで担当者からの連絡を待つ。しばらくして車中からの連絡があり、10分後に着くからホテルのロビーで待っていてほしいとのこと。急いでホテルへ向かうと、ちょうど入り口に止まっているバンと鉢合わせして、ドアから降りてくる「あの人」と遭遇。それまでもツアーで何度か偶然遭遇しているものの、
今回は緊張の尺度が違いすぎる。それに今回は。。。彼が俺のことを知っているかもしれない、知っているに違いないという事実。

 前の仕事のクルーと挨拶を交わす姿を、その場に立ち竦んで緊張な面持ちで見てる俺。彼がそれに気づいてこちらに目を向く。

"Hi, Kino. Good evening, Nice to see you..."

 あ、あの低音バリバリの声で話かけられた俺は引きつりの笑顔しか見せられず、どちらかと言えば「蛇に睨まれた蛙」状態。なぜ判った?いや、もっともWSフェアウェルツアーのポロシャツを着ていったのでヂツに判りやすかったからに違いないが(苦笑)。

 その後マイキー氏及び担当女史と軽い挨拶を交わす中、Covは先にバーへとっとと向かう。

 バーに入る前に二人から「彼は仕事で疲れているのであまり過度な質問は控えてほしい」とのアテンションがあってからバーへなだれ込む。ええ、ええ、わがまま言いましぇん、何でも言うことききますとも。

 ふかふかのソファに身を沈めて一息つく御大。これまでのインタビューではあまり座り心地のよくないソファだったと愚痴る。こっちに反して実にリラックスしすぎ(笑)。

 いよいよ自分史上の夢としてだけ願い、実現には程遠かったミーティングが現実のものとして始まる。。。

 以下、DがCov/Mがマネージャのマイキー/Kが俺。

D:ウゲンキデスカ?KINO

K:元気です。ありがとうございます。
  (疲れてません?というつもりが...)疲れてるんですか?

D:(爆)責めないでくれよ。今日は6000もインタビューも受けたよ(笑)。KINOは最近どうしてる?

K:毎日自分の...いえ貴方のホームページを更新してます...コレクション情報を正しくしたり...手に入れた情報を世界に広めたい...

D:ファンタスティックだ。実にファンタスティック。(ここまで無理して英語でやりとりしようとしてた俺に気を遣い)マリコ(担当女史の名前)が訳してくれるからもっと楽に話してくれていいよ。彼女は日本人だからね(笑)。しかもセクシーだ。
  
  (その後女史とちょっと言葉での御戯れ)

D:KINOのことはマイキーがアンから受け取ったEメールで聞いてたよ。我々は彼女から貰った写真を見てるし、オフィスに飾ってある。
  
M:キミ達が英国で撮った写真さ。

D:アンとフィル(ハックネイ。かつてあった英国ファンサイトのウェッブマスター)も一緒に写ってる。
  
  (俺は前年末にサンダーのフェアウェルツアーでアンとニューカッスルで再会している。先のメールで俺がブルーンエールを好きなことを知っていたのも彼女経由で伝わってきたことは容易に想像つく)


D:KINOはどんな仕事をしてるんだい?

K:主に医療関係の会社や公官庁等のウェッブサイトのパブリッシングや運用を手がけてます。

D:オゥ、ワォ、それは興味あるね。

M:アンがEメールで話していたけどキミは膨大なコレクションを持ってる。どのくらい持っているんだい?

K:2500枚くらいでしょうか?

D:はは、僕だって自分でそんなに持ってないよ(笑)

K:あ、スミマセン、それは持っているCD全部で、WSやDP、貴方関係のは大体500枚くらいです。

D:そうか、なるほどね。

  (ここで飲み物。辛口日本酒をご所望の彼には「菊正宗」とかわいいグラスが。ウエイタにもあの声で「ドモ」。そして皆で乾杯。一口して「ホゥ~」とため息。この後マイキーと名刺交換)

M:デヴィッドは君や他の多くのサイトから質問を得たいとアンを通じて集めてもらってる。デヴィッドが新しいサイトでそれに答える。

K:はい、彼女から聞いてます。

D:君たちの長年のサポートには感謝している。知っているとは思うけど、僕は新しいレコードやツアーの時にだけインタビューしてきた。それ以上はなかった。その後は沈黙を守り静かにしていた。でも現在のインターネットを僕はエキサイトに思う。誰かが質問してきた。インターネットで流れてるんだそうだ、僕がヴァン・ヘイレンに入ると。でも答えはノー。その答えもすぐに伝えられた。(ナッツをつまみながら)EMIが食事をくれないからコレがすごくおいしいよ。なにしろ今日は11時間50分も働かされたからね。(マイキー得意の爆)新譜の反応は信じられないくらいよかったよ。

K:僕もヴァン・ヘイレン加入の噂を聞いて確かな情報ではないと思って載せなかったんです。欲しいのは正確な情報です。だからオフィシャル・サイトができることは嬉しいです。

D:僕達は今後君達とコラボレートしていきたい。世界中のどこのサイトとも。終わりのない共同作業だ。僕達はチームでもあるんだよ。今日マサ・イトウとコウ・サカイとも話したんだけど、EMIからKINOを紹介してもらって、マサ、コウと一緒に彼らの監修の元で日本語のページを作ってもらいたい。

 (結構スケールのデカイ話なので唖然)

D:コウとマサは長年にわたる古い友達だ。彼らはすごい忙しいから情報が入ったとしてもウェッブサイトを作るのは難しい。一緒に働くんだ、一緒にね。

M:(担当女史に向かって)彼に新しいアルバムのコピーを送ってくれる?

D:ナップスターからはダメだよ

 (全員で爆。担当女史と名刺交換)

D:前にウドーにも話したことがあるんだけど、日本でレコードを作りたいと思っている。そして東京・大阪・名古屋・広島といった都会だけでなく、カントリーサイド、小さな町、海岸沿いの漁村等を見て歩きたい。ウドーは「それは高くつく、メンバーやスタッフのホテルやスタジオ代など信じられない額だ」と言っていたけど、でもそれが僕の夢だよ。

D:KINOは結婚してるの?

K:いいえ

D:それはいい!

K:(笑。なぜじゃ?)でも1回離婚してます。

D:おぅ、僕は2回だから。(離婚は)もうしないよ、絶対に。

 (直後気が付いたように、離婚したと訊いている東芝EMIの前担当者の様子を女史に尋ねる。気遣いの人。)

M:(担当女史に説明するように)
  興味深かったのは、KINOのサイトには全てのツアー日のニュースが載っていて...
  
D:前回のツアーのギタリストの一人、スティーブ・ファリスが奥さんに電話すると、彼女が「まぁ、今夜のショウは凄くよかったんですって?」と観たかのように話す。僕達がホテルに戻った時、彼のサイトには既にレビューや写真が載っていてたんだ。
  
K:ツアーを廻って、自分もそれこそ朝までにレビューを書いたりしてホテルからモバイル・コンピュータでアップデートするんです。みんなに知らせたい情報だし、彼らも知りたい情報ですから。

D:グレイトだ。

M:ウェッブサイトに載せているコレクションで、日本以外の珍しいものについてはどうやって手に入れるんだい?

K:輸入レコード屋を歩いて廻って見つけたり、インターネット時代の今は海外の友達と交換したりすることも可能です。

D:うん、ファンタスティックなコンセプトだ。インターネットには信じられないくらいの可能性を感じるよね。

K:僕が5年前に初めてインターネットにアクセスした時、まだWSに関するサイトがなかったんです。とても残念だった。だから自分がやってみんなの役に立てればと思って1週間しない内に始めました。

D:世界が小さく感じるようになったよね。インターネットでもっと親近感がわくようになった。

K:インターネットで一番仲のいい友人は南アフリカに住んでいるんですよ。「今日デヴィッドに逢うから手紙を書いてみれば?」と話して書いてもらったのがこれです。彼とは貴方が今度英国をツアーすることがある時に初めて逢うことになっています。
   
 (デヴィッドは暫し手紙を読み入る)

M:今度のウェッブサイトはベーシックな部分は全てアメリカの会社にすべて委託しているんだけど、(俺、酒井さん、伊藤さん)3人でその一部を日本人に判りやすい形で手直ししてもらえればと考えているんだ。
  
D:常にフレッシュなニュースだ。いいかい、これは僕をサポートしてくれる人達と個人的に触れ合うことを可能とする、僕にとって大切な機会になるんだ
  
 (読み終えた手紙をマイキーに手渡して)すごいよ、遠距離ながら4年にわたる友情だ。

 ここで他に1通=hamaの、そして後日回答してもらおうと思っていた自分の質問状を手渡す。時間をかけて読み入っている。「まずい質問をしてまいか?(中にはルーク・モーリーについて触れていた質問もあり)大間違いな英語で癇に障ってないか?」と不安な面持ちでずっと彼を見入る。その間、マイキーにウチのサイトへのアクセス数を訊かれたが、
 上の空でちゃんと答えられず。 
 やっと読み終え、静かに一言、「サンキュー」。まぁ率直に判ってはもらえなかったようだ(苦笑)。なにせあらかじめアンに見せて推敲したほうがいいと言われた(号泣)くらいだから。
 
 その質問状を要約する意味もあり、そして業界流な今度のアルバムの話でもなく(この時点で何も予備知識がないのに何が訊けよう?)、ミーハーなファンとしてこれまでのキャリアでの下世話な業界話の真相でもなく、~彼に逢った時に一番訊いてみたかった~ひとつの核心に触れてみようと思った。


K:僕は個人的に、あなたが影響を受けたであろうブルーズについてのお話、長年ルーツとして受けいれていることについて伺いたかったんです。

 (以下は友人のニックの奥さんにテープから書き起こしてもらった文の限りなく詳細な訳)

D:マディ・ウォーターズ、彼の声が好きだ。そしてボビー・ブルー・ブランド、バディ・ガイ、フレディ・キング、アルバート・キング、とにかく多くのブルーズミュージシャンを愛したよ。それからオーティス・レディング、ウィルソン・ピケット等のスタックス系やソウルシンガーへ移って、アレサ・フランクリン、カーラ・トーマス....モータウンも好きだ。全てが自分の一部だよ。ブルーズに始まって次にソウル、モータウンだ。

最大の理由は、アメリカの黒人は自身を表現するのにを自分達の前に壁を作らないからだ。彼らは本当に正直に、隠し事することなく唄うことで白人による侮蔑的待遇に耐え忍んできた。本当にオープンだ。でしゃばりすぎもせず。僕にはそう思える。
  
西洋では、我々は偽りの中で生きている。黒人、ブルーズマン達、初期のブルーズ・ソングには隠し事がない。本当に正直なんだよ、肉体を表現することにおいても感情を表現することにおいても。彼らはセックスについて唄い、愛について唄い、高まる心臓の鼓動について唄ってるよね?それは本当に正直だからなんだよ。ところが西洋では、白人の子供が大きくなる段階で、幼い頃から「自分の感情を見せるな」と教えられる。日本でも多分同じで「自分の感情を見せるな」と言われるんじゃないのかな?僕の父はよく「泣くな。泣くんじゃないぞ」と僕に言って聞かせたよ。

彼ら黒人達には隠し事がない。自分達が何者であるかを知っていて、完全に居心地のよい状態を作っている。僕が書く曲の多くは、すごくオープンに、あるいはオープンにしようとしているのはキミにもわかるだろうけど、それでもいくらかの場面で自分の感情を隠していたと思うし、"いや、これは良くないな。うん、これはすごく良い"と正直に言える、自分らしさを見出すまでに長い長い歳月がかかった。
  
多くの白人が黒人を見下したり、劣っているとみなしているなんて僕には考えられないよ。彼らはずっと完璧だ。教会に行くと....黒人の教会、バプテストの教会だ。そこで神の魂を祝っているのは知ってるよね(ゴスペルのこと)。白人の教会は....(ため息)。僕はマディ・ウォーターズを聴くと彼が人生を謳歌して生きている、そんな風に感じることができる。そうだろう?

まさにそう、セレブレーションなんだ。正直な気持ち。
  
世の中は画策だらけだ、個人的な関係においてさえも。先週妻と話をしたけど、それは互いの関係を円満にするのに絶対に必要なことだ。お互いを取りまく雰囲気をクリーンにしておくことは絶対に重要。あらゆること、どんなことをも話し合うべきだよね。僕の3度目前の2度の結婚では悩まされたし、欺瞞・嘘・でたらめ・みせかけに満ち溢れてた。それが不幸になることを確約するし、失敗も確約するんだ....「隠し事はなし」が大事。勿論キミとの間にもないよ(笑)。

 引き出せたことは予想以上だった。ブルーズという音楽の話ではなく、いろいろなエピソードを交え、人間のあるべき姿に近づこうしている彼が「今も常に求めていること」について語ってくれたのである。それはその後ニューアルバムを聴いて、より強く感じたのは事実であり、大きな収穫だった。。。


 あっという間に23時を過ぎてしまい、そろそろおいとまさせてもらうとこちらから切り出す。色紙は何枚か用意してたけど、1枚だけにサイト用へのメッセージを書いてもらいたいとお願いしたが、あまりに個人的な感涙に咽ぶ内容だったのでやっぱり丸秘としとく(それに約束は守れてないし。苦笑)。その後3人で明日の仕事の打ち合わせをちょこちょこっと
してみんなでバーを出た。会計はEMI持ち(笑)。

 ロビーで一緒に写真も撮ってもらおうとしたが、デジカメの調子が悪く断念。最後にこちらからハグを求めて。。。おしまい。

で、その後のストーリーは。。。ホントに全くなし(苦笑)。
俺は「宿題をしていかなかった」理由を言い訳としたくないので。。。
これで〆る。